『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』を観たので感想を書く。/カッコいい女達。

※注意
本記事には小説版と映画版双方の『パトレイバー 首都決戦』に対する印象が書かれています。
前情報を一切知りたくない方は読まない方が良いかもしれません。


全7章の上映+劇場版の公開により
遂に一旦終了した『THE NEXT GENERATIONパトレイバー』。
アニメや漫画で展開された『機動警察パトレイバー』の実写版です。
総監督は押井守監督。この方が選んだ三人の若手監督+押井監督自身の四人で
7章を構成する全12話をそれぞれ演出しております。

今回はシリーズの総決算であり長編劇場版『首都決戦』が公開されたので、
その感想を残しておこうかと思います。
追い続けた身としてはこれも書かない訳にはいかないですし。
公式サイトはこちら


<あらすじ>
熱海への慰安旅行をしている特車二課。
その最中、彼らは東京のレインボーブリッジが爆破された事件を知る。
時を同じくして警視庁公安部の警部「高畑慧」は、
1年前から内偵を進めているある集団の足取りを追っていた。
その集団とは13年前に東京で発生した「幻のクーデター事件」の首謀者「柘植行人」を信奉し、
今回のレインボーブリッジ爆破事件を引き起こした犯人達だった。
集団は自衛隊が開発した光学迷彩搭載の戦闘ヘリ「グレイゴースト」を強奪し犯行に及んでおり、
協力者としてグレイゴーストのパイロット「灰原零」という女性もテロに参加していた。
高畑は特車二課の二代目隊長「後藤田」に協力を求めるが、後藤田は協力する気になれない。
無関係でいようとする中、事件の騒動に乗じて警察上層部による
二課の解体問題が現実味を帯び始める。
そしてテログループも、「状況開始」の為に着々と準備を進めていた……。

<『パト2』と『首都決戦』の差から見えてくるテロリスト達>
最初に書いておきますと、今回の『首都決戦』は同じ監督によりアニメで作られた
『機動警察パトレイバー2 the movie』(以下、『パト2』)の正式な続編です。
テログループが引き起こす事件も『パト2』で引き起こされる破壊活動を模倣しています。
しかし同じようなテロが起きているにも関わらず、
この2つの間には全くの別物のような雰囲気を感じさせるようになっていると思います。

というのは、前作『パト2』は事件の首謀者である「柘植行人」に
押井監督がかなり肩入れしているように感じられます。
実は監督が柘植行人なのではないかと錯覚するほどにです。
しかし今回のテロ活動に対して、そういった感情は一切感じられません。
『パト2』の状況や展開をなぞってはいるものの、
テログループに対しては終始冷めた目線で描かれます。

特徴的なのは映画冒頭で描かれるレインボーブリッジの爆破です。
前作での横浜ベイブリッジ爆破では、事件が起きる直前の静けさ、そこからのミサイル発射、
そしてミサイルの主観で爆破しようとする橋へどんどん近づく様子を見せていました。
一方今回は所々『パト2』での場面を模倣しつつミサイルが橋へ飛んでいく場面を映しながらも、
それが直撃して爆発する場面はニュース映像やモニター越しでしか映しません。
 『パト2』同様の橋爆破を、対照的に客観的に描いています。

そして映画後半で展開されるテログループ達の大規模な破壊活動。
これも柘植が起こした事件の中の、分かりやすい破壊活動を真似してるだけ。
つまり今回のテログループの活動は全てが「模倣」になっているんですね。
彼らがテロを起こした動機を描かずにこの一連の模倣されたテロのみが描かれることで、
今回のテログループが「空虚なテロリスト」のように見えました。
そしてそれは、かなり意識的にやっていることも伝わってきます。

<感じたのは柘植への憧れ>
そんな空虚なテロリストに見えた彼らなんですが、何のかんの言って
「結局は柘植に憧れていただけなのかな」という風に思えました。
「『信奉者の集まり』なんだからそりゃそうだろ」と言われたらそれまでなんですが、
彼に憧れ彼と同じようなことをすることで一体化出来たような快感を味わいたいが為に
あんな行動に及んだんじゃないかという風に感じられたんですね。

テログループの一人が「戦争を教育してやれ」という台詞を言う場面があります。
最初観た時は随分カッコいい台詞を言うものだなぁと思ったんですが考えてみると、
「あの柘植行人みたいなことやってる自分達」に酔ってるからこそ
こんなこと言ってしまえるのかなと思いました。
(大体「戦争を教育してやれ(キリッ」と言えるほどの修羅場をこの人達は
柘植ほど経験したのだろうかと思ったりしたんですがそれは置いといて……)
それと意図したかどうかは分かりませんが、テログループのボス「小野寺」演じる
吉田鋼太郎さんの素晴らしく良い声で言うカッコいい台詞は非常に演劇的で、
ますます「自分に酔っているのでは?」という想いが強くなりました。

ただそんな酔ってる彼らの中で、一際異彩を放っている存在が1人います。
それが戦闘ヘリ「グレイゴースト」に乗る女性、灰原零です。
彼女に関しては後述します。

ところで補給を終えたグレイゴーストに向かって小野寺が「行けぇ!」というところは
これからのグレイゴーストによる破壊を期待させてくれるので、さすがにアガりました。
 「飛べ、鉄人……!」的な。

<テロリスト達に対する後藤田の決断>
今回の映画の主役は特車二課二代目隊長の後藤田です。
筧利夫さん主演の映画ってのも凄いですね。更に書くとヒロインは高島礼子さん。いやぁ凄い。

自分に酔ってる(ように私には見えた)はた迷惑なテログループ。
そんなはた迷惑な彼らに対して特車二課二代目隊長、後藤田は戦いを挑むことを決断します。
それは「『正義の味方』として戦う」というよりも、自分達の居場所を守る為。
この理由、個人的には凄く共感出来ました。
居場所を守ることは自分の存在理由を守ることにも繋がると思いますし、
それは「俺は(全てをなげうってでも戦った)先輩(=先代の後藤隊長)とは違う」ということを
明確に示しているようにも思えましたね。
6匹の金魚の存在がなんだかんだで3代目隊員達を大事にしていることを
暗に表しているように見えます。

<『パト2』を観ないと駄目かどうか?>
パト2パト2書いてると「じゃぁ前作観てないとダメなのか……」と思うかもしれませんが、
別に見なくても問題無いと思うんですよね。
テロリスト達の動機については「昔あった事件へのアコガレで行動してるんだろうなぁ」
と思っておけば良いでしょうし、観ているうちに
「いや、実は違うのでは」と自分なりの結論を持てるでしょうし。
観終わった後に『パト2』を手に取って「そりゃ憧れる訳だわ……」と思うのも良しだと思います。
まぁ『パト2』を観ていたら「うわっ!」となる再現されたサービスカットはあるにはあります。
それと整備班帳の「シバシゲオ」が後半の展開でなぜあんなにも「泣く」のか?
それも『パト2』を観ているともっとグッとくるものもあるでしょう。
でも結局はおまけ程度だと思うんですけどね。

ところで映画の肝になってるVFXですが、まぁ凄い。
都庁周りのスカイアクションもそうですし、
やっぱりグレイゴーストの蹂躙は観ていて正直気持ちがいいです。
 『暴走! 赤いレイバー』を観た時も思いましたが、
敵の兵器というのは止まることなく加速し破壊し続けるのが1番なのかもしれないですね。

<見所は戦う5人の女たち!>
今回は5人の女が戦う映画です。むしろそれが全てか。なので1人ずつ印象を紹介。
①泉野 明(演:真野恵里菜)
分かりやすい活躍シーンは敵のアジト突入時の回し蹴りと、最後のグレイゴースト戦。
しかし灰原が使うバスケットボールを見つめる佑馬を見る目線、
そのボールをバスケットゴールに何度も入れる姿は、密かに灰原に対して
対抗心を燃やしていることがビシバシと伝わってきます。これで充分だと思うんですが、駄目か?
明と灰原は劇中で一切顔を合わせていませんが、
明のパートナーである佑馬のみが灰原と会うことで2人を繋いでいます。
イングラムと動きを「一体化」させるクライマックスは
監督が常々描いている「身体の延長化」を感じさせて好きです。
『パト2』観ていると「OPであったアレだ!」と驚きます。

②カーシャ(演:太田莉菜)
中盤の敵のアジトへの突入シーンで大活躍を見せます。ここではまさに主役です。
テロに屈しない強い意志を感じさせ、彼女が日本の外側から来たことを意識させられます。
2ndユニット班を受け持った辻本貴則監督と園村健介アクション監督による演出は
太田莉菜さんの凄さを感じさせ、同時に日本映画のアクションの可能性も見せてくれます。
彼女が実写版草薙素子で良いですよ、もう。
間違いなく「ジャパンアクションアワード2016」でノミネートされなければならない場面です。

③南雲しのぶ(演:渋谷亜希・声:榊原良子)
アニメのキャラクターが実写に入り込んできた感覚があります。
しかし決して完全に実写側に入ってくることは無く、
フェンスによって三次元の後藤田との間に境界線が引かれます。
後藤田の背中を押す存在の一人です。

④高畑慧(演:高島礼子)
犯人を追う松井刑事、社会にある問題を語る荒川茂樹、背中を押す南雲しのぶの
役割を一手に担っている存在。演者である高島礼子さんへの監督の気持ちが炸裂です。
これは深読みですが、高畑は南雲に対してかなり対抗心を持っているのかなぁと思いました。
終盤に『西部警察』並の活躍見せるところとか
「私は行動だって起こせる」と見せつけるようですし。
それと後藤田に対して煙に巻くような言動をしつつ、それでいて彼にじっくりと歩み寄っています。
魅力的なキャラクターであることは間違いないです。カーシャとも少し似てますね。
それにしても後藤田は2人の女に背中を押されて、なんて羨ましい立場なのでしょうか。

⑤灰原零(演:森カンナ)
先述したカッコいい台詞を吐くことで滑稽に見えてくるテログループの中で、
ほぼ喋らないグレイゴーストの搭乗者。
喋る人達の中で喋らないからこそ、彼女の異物感が一際目立ちます。
そしてニヤリと笑う。もう完全にホラー映画のキャラクターですよ彼女。
監督が意図したであろう「何を考えているか分からない」が大成功しています。
森カンナさんの新境地を開拓しています。

ただもっと劇中で「灰原とは何者なのか?」に迫るパートが
あっても良かったのではと思います。映画鑑賞前に読んだ
ノベライズ版『TOKYO WAR2 灰色の幽霊』はそのパートがあったので余計そう思いました。
ちなみにこの小説は副題の通り灰原が物語の核。
映画には無かった灰原の自衛隊時代の元同僚が彼女の行動を喋るパートが
追加されており、その内容はかなり不気味です。
 『機動警察パトレイバー the movie』での犯人「帆場暎一」の正体へ迫る話に
ホラー要素が加わった印象を受けます。あっちも不気味ですけど、こっちは明確に「怖い」。

テログループは灰原を利用しているだけに過ぎないのかもしれないですけど、
むしろ灰原が彼らを利用していたんじゃないか? そう考えると背筋が寒くなります。
そういえば『TOKYO WAR2』では小野寺率いるテログループの
スポンサーの存在も匂わせていました。
これにより増々彼らテログループは「利用されたに過ぎない」という印象が強くなります。
「あの国」に何の意図があったのかは分かりませんが。
灰原零のキャラクターは今野敏さんの小説『同期』をドラマ化した時に登場した
栗山千明さんの演じる人物を思い起こさせましたね。
どんなキャラクターかを描くとネタバレになるので、良ければ観てください。

<その他>
・中盤のアクションシーンで見せる御酒屋さんの男気に惚れました。
・熱海での後藤田隊長と地元警察の刑事のやり取りを見る限り、『大怪獣現わる』は
 夢の話だったんでしょうね、多分。初対面って感じだったし。

<まとめ>
とにかく女性がカッコいい! そんな映画です。
にも関わらず映画の宣伝はそれをアピールせず「ロボットアクション」推しでいます。
もちろんイングラムは出番は少ないものの印象的な活躍をしてると思うし、
CGも日本映画の中では凄い頑張っているでしょう。
しかしもっとこの女性たちの活躍が凄いということを宣伝で伝えるべきです。
そのただ一点においては、まだ他の配給会社の宣伝の方が上手いです。
きっと5人の女がフューチャーされたCMを作るはずです。

押井監督の日本を舞台にした実写映画ではかなりサービスをし、
個人的には気に入ってる作品です。
ただ素人目から観ても前半をばっさりカットしてるのが分かるので、
あそこだけどうにかして欲しいと思いました。
なんといいますか、前半だけテレビ放送で流れる映画を
観ているような印象を受けたんですよね。
でも全体的に見たら、面白い一作です。小説版もおススメ。
興味があったら是非どうぞ。
スポンサーサイト

comment

管理者にだけメッセージを送る

高畑と南雲

はじめまして。
私は映画を見て、高畑と南雲は以前から顔見知りであって、ライバル意識をもってたのでは?と思いました。
姿を消してもなお上層部に幻だったが爆弾を意識させている事(後藤さんの仕組んだことだとは思いますけど。)組織から離れても影響力がある南雲と、組織に縛られて最善を尽くそうとする高畑。
なんか、ドラマがありそうですね。

長文失礼しました。

Re: 高畑と南雲

コメントありがとうございます。

>高畑と南雲は以前から顔見知りであって、ライバル意識をもってたのでは?

確かにそう感じさせる部分もありますね。
劇中で高畑が明確に南雲の名前を言わないところが、特にそう思わせてくれるといいますか。
本作は台詞の1つ1つに登場人物の背景を考えさせる「深さ」があるのかな、と思っています。
プロフィール

Author:ヤギメロ
映画とか本とか、色々好きな者だす。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード