映画『回転』 /想像して、怖くなる。

名作と評価を受ける心理小説が原作の映画。
映画の公開が1961年で小説の出版が1898年と、古典の域に達してます。
以前より観たいと思っていた作品ですが、レンタルはされていませんでした。
それが先日TSUTAYAにて、発掘良品としてDVDレンタル開始!
早速手に取り鑑賞しました。

住み込みの家庭教師として雇われた女性が訪れた大きな屋敷。
その屋敷に住む数人の使用人達や小さな兄妹2人と、
彼女は平穏な日常を送るはずだった。
しかし住み始めてから教師は不思議な現象を目にするようになり、
次第に不安感を募らせていく……。

白黒の映像は明るい日差し以上に暗い影を強調し、ホラー映画としての雰囲気を盛り立てる。
映画の舞台となる巨大な屋敷の内装も映画ではそこまで大々的に映すことはしないまでも、
登場人物が移動する度に一寸の隙も無いほどに装飾が施されていることが理解出来る。
度々長回しの撮影を用いて屋敷内を移動するので、
歴史ある荘厳さと広過ぎるゆえの不気味さを同時に感じ取れた。

劇中では、色んなホラー映画で見かける演出が散見された
(「得体のしれない何かが潜む屋敷」というのも定番の舞台設定)。
人物の視線の先に立ちすくむ、ハッキリとは見えない人影。
振り向いた先にいる死んだはずの人間。不意に流れた風で揺れる窓や木々。
「揺れるカーテン」が映った時は、黒沢清監督の作品を思い出した。
調べてみると、黒沢監督自身が好きなホラー映画として挙げているらしい。
この作品が監督の映画演出に影響を与えているのは間違いない。

本作を観て、私は以前鑑賞したある映画を思い出した。
それは『放送禁止 劇場版 洗脳 ~邪悪なる鉄のイメージ~』(以下、『洗脳』)だ。
ある人物を脱洗脳させるまでをモキュメンタリー形式で描いたその作品を観ていたので、
『回転』は「屋敷に潜む何か」によって洗脳された子どもを
主人公である女性教師が脱洗脳させるまでの作品という印象を抱いた。

洗脳された人間は自分が洗脳されているとは思わないということが
『洗脳』の劇中で解説される。
だから脱洗脳を試みる心理学者の問いかけに対して、
当事者は強い拒否反応を示す、という展開がある。
『回転』の兄妹は一見すると、子どもらしく無邪気に遊んでいるようにしか見えない。
しかし主人公の問いかけによって次第に裏側に隠れた一面が出始める展開があり、
先述した作品を思い出さずにはいられなかった。
支配を解く為の主人公と兄妹の会話劇は、
双方の抜群の演技力により非常に見応えのある「対決」シーンとなっている。
特に子役の演技レベルは映画全体で高過ぎて驚かされた。

映画は最後まで2つの可能性を提示し、観る側に緊張感を強い続ける。
怪奇現象を目撃している主人公は、間違いなく兄妹はある人物の支配下にあると睨む。
一方、屋敷にいる他の使用人は主人公のように不思議な現象は一度も目撃しないし、
根本の原因と思しき過去に屋敷で起きた事件については目を背けた態度を取る。
その両者の異なる姿勢が劇中で平等に描かれることで、
「全ては屋敷に潜む存在が原因である」通常の可能性だけでなく
「実は一連の劇中の現象は全て主人公の妄想なのではないか?」
という別の可能性も挙がってくるようになっている。
ありがちな展開ではあるが、主人公の迫真の演技によって
どっちに転ぶか分からず、最後までハラハラさせられた。

洗脳を施した人間が死んで、
周囲の環境により洗脳を解く機会が無くなってしまった人々はどうなってしまうのだろう?
本作は観終わった後にそんなことを想像させ恐ろしくなる。
そういう意味では、ホラー映画としてだけでなく心理スリラーとしても秀でた作品と感じた。


という訳で中々に見応えある作品でした。
発掘良品ブランドこういった映画が世に出るのは良いことですね。興味があれば是非どうぞ。
スポンサーサイト

今日まで観た映画の感想を備忘録的に書く。

2016年に入って映画館に行ったのは『オデッセイ』で2回目です。
それまではCSや動画配信で映画を鑑賞していました。
複数本の作品の感想を簡単に、備忘録的に残しておきたいと思います。

『マークスの山』(監督:崔洋一)
高村薫さんが執筆された小説が原作。
WOWOWで上川隆也さん主演でドラマ化もされていますが、
本作はそれよりも前に映画化された作品です。原作は未読。
「マークス」と名乗る人物が引き起こす連続殺人事件を追う刑事と犯人のそれぞれのドラマ、
そして「マークス」という言葉に隠された意味が解き明かされていく物語。

とにかく事件の捜査にあたる刑事達の顔が濃くて、冒頭でお腹いっぱい。
中井貴一さん、西島秀俊さん、古尾谷雅人さん、小木茂光さん、遠藤憲一さん……。
他にもいま考えると豪華な人達が刑事を演じ、錚々たる面子。
色味の抑えられた画面からは冷たい雰囲気が感じられ、
その世界の中で刑事達が対立しまくるんですね。仲良くしてた印象が一切無い。
妙に殺伐としていて「事件解決出来るんだろうか……」と最初から不安にさせてくれます。
そんな不安の心持の中で観ることになるのは、事件の裏側に潜む学生運動が絡んだ深い闇。
ドラマパートを遠慮なしのバイオレンスと性描写を通して描かれ、中々の濃さを醸し出しています。
はっきりいって刑事達は脇役といっても良いレベルにまで
追い込まれているのにはさすがに驚きました。
これの製作にアミューズが関わっていたことも意外です。

『理由』(監督:大林宣彦)
宮部みゆきさんが執筆された小説が原作。
ある超高層マンションで起きた殺人事件を、様々な人物の証言を通して紐解いていく物語。
再現ドラマ(という設定)や事件に関係した人達へのインタビューで構成された本作は、
話が動く度にありとあらゆる演出が披露され、観ているこっちが驚かされます。
「映画ってこういう風に作っても良いんだな、上手く作ればこんなにも凄いものが出来るんだな」
という映画の可能性を改めて感じさせられました。
しかし一番印象に残ったのが岸部一徳さん。ほぼ映画の主役。そしてED曲が不穏過ぎて……。

『あぶない刑事』(監督:長谷部安春)
『さらば あぶない刑事』が公開中ということで鑑賞しましたが、良いですねぇ。
元々再放送ですがテレビシリーズで視聴して大好きなシリーズでしたので、
終始ワクワクしながら観ました。
映画だけの登場人物の処理の仕方があまり練られていないような気もしましたが、
タカ&ユージのお洒落さとカッコよさ、そしてアクションで全て帳消し。


2016年はこれから映画がどんどん公開されるので、楽しみですね。
以上、短文失礼いたしました。

『オデッセイ』 ~「生き残る」と「助ける」~

2016年を迎えましたが、リドリー・スコット監督の最新作『オデッセイ』を鑑賞しました。
ネットで話題を呼び、書籍化されて更に人気を呼んだというSF小説『火星の人』が原作。
映画版は本国で公開後、高い評価を獲得しました。そんな話題作が遂に日本公開。
早速観てきました。公式サイトはこちら


宇宙飛行士で植物学者でもある「マーク・ワトニー」が
一人取り残された火星で過酷なサバイバル生活を送り、地球に帰るまでのお話。
並行して、ワトニーを救出する為のNASAの奮闘も描かれる。

様々な障害を知恵と勇気で乗り越えていく全体の作風は基本的に大好き。
特に注目したいのが、困難に立ち向かう主人公の姿勢だ。

映画の中では絶望的な状況が発生し、ワトニーが悔しさに声をあげる展開がある。
しかし彼はその悔しさをいつまでも引っ張らず、次の対策を考え始める。
なぜなら酸素も無い場所で諦めるということは、死を意味するからだ。
だからこそワトニーは考えることを止めない。
気持ちを切り替えて次の対策を練り、実行する。
この姿が主人公がプロフェッショナルであることを証明する一方で、
映画の雰囲気に影を落とし過ぎないバランスを保つことにも繋がっていた。
無言で考えに耽る姿を1カット挟んでくる監督の演出の細やかさにも感心させられる。

映画全体はワトニーの根の明るいキャラクター性や
人物同士のコメディ的なやり取りの多さで、陽性な雰囲気を最後まで貫いている。

しかし火星や宇宙は地球と比べて危険な場所であることも
一方で再三描写されるので、ワトニーを筆頭とした宇宙飛行士達は
常に死と隣り合わせであることを観客側は意識し続けることになる。
それがポジティブでありながら緊張感を決して失わせない
絶妙なラインに本作を立たせており、最後までその立位置がブレることは無かった。

キャスト面では、『アントマン』での活躍が記憶に新しいマイケル・ペーニャが印象的。
ワトニーの仲間のクルーとして出演しており、
冗談を飛ばす一方で機転を利かせた活躍を見せてくれる。
対象的にシリアスなドラマパートではショーン・ビーンが良い味を出していた。
火星に取り残されたワトニーや、
結果的にワトニーを置き去りにしてしまった火星探査チームのクルー達を
思いやるNASAのスタッフとして渋カッコいい。

この2人を代表として、ワトニーを助ける為に奮闘する人々の中で
要らないキャラクターが1人もいなかった。
例えば仕事を進めるNASAの各セクションには主役格になるキャラクターが必ず1人いて、
それぞれ自分のスキルを駆使する場面が描写されている。
その為、1人の男のサバイバル映画でありながら、
プロジェクト成功に挑む群像劇としての面も併せ持っている。
ワトニーが生き残る為に見せてくれる科学技術についてだけでなく、
「誰が今回のプロジェクトで活躍したか?」ということも
鑑賞後に語り合うのに良いんじゃないかと思う。

舞台となる火星の風景も素晴らしい。
調べてみて知ったのだが、
本作の火星はヨルダンのワディラムという場所で撮影されたという。
主人公が移動用車両に乗り込んで火星の大地を進んでいくシーンは
果てしなく続く赤い世界を特に雄大に映し出していて、目を奪われた。
このただ進み続けていくシーンを5分ぐらい掛けて描写していたら、
押井守監督作品の「ダレ場」になるのだろう。多分。

主人公が生き残る為に様々な策を講じることが「科学する」という動詞と
そのまま結びつくような知的な物語構成になっており、
かといって決して堅苦しくなり過ぎない作風で進んでいくので、
とても観やすかった本作。
宇宙は怖い。しかし、夢や希望を抱く対象となり得るのも
また宇宙であることも教えてくれる映画だ。
サバイバル映画を観たと同時に
NHKのドキュメンタリー『プロジェクトX』を視聴した感覚があり、1つで二度美味い作品である。


ということで『オデッセイ』、笑えるところが多いのと同じくらい
科学実験的な映像で頷かせてくれることが多く、知的好奇心をくすぐられました。
お薦めの一作ですので、興味があれば是非どうぞ。
やっぱりリドリー・スコット監督の宇宙船描写は最高です!
プロフィール

Author:ヤギメロ
映画とか本とか、色々好きな者だす。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード