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読み終わった翌日が父の日だった偶然の『満ちみてる生』感想


(某所で書いたものをこちらにも転載)

満ちみてる生
ジョン・ファンテ作 栗原俊秀 訳 未知谷

出産を間近に控えた若い夫婦の日々を追った小説。
主人公の名前はジョン・ファンテ。著者の名前と同じ、
ということはノンフィクション? と最初は思ったのですが、
訳者あとがきを読んだところそうではなく、
れっきとしたフィクション、創作だそうです。
本来は別の名前にする予定だったそうですが、
出版社側から作者の名前を主人公の名前にする提案があり、
ファンテもそれを受け入れたとのこと。
主人公の名前が作者と同じになったことで、
描かれる物語に込められた想いがより鮮明に見えてきたような気がします。

夫の一人称の目線で語られる彼自身の精神状態、
妊娠前と後で(彼から見たら)どこか変わってしまった妻への戸惑いは、
軽やかでユーモアのある文体ながら生々しい。
と同時に心情は描かれないものの、
妻は内に秘めた悩みに対する答えや救いを、
もしかしたら夫以上に求めているのではと読む側の想像を刺激します。
フィクションではあるにせよ、この日々を描き出したエネルギーの根本は
経験から来る実感だったんじゃないかな、と考えてしまいます。

夫婦の物語の他に描かれるのが、主人公の両親との交流、
特に父親との関係です。都会的な暮らしをする主人公と、
伝統的な昔ながらの文化に拘る振る舞いを見せる父親との
微妙な距離感とぎこちなさ。
親に対する主人公の複雑な想いを綴った部分に
夫妻の物語と同じくらいにページが割かれています。
そこから浮かび上がってくる父親への想いもまた、
かつて作者が抱いていたリアルな気持ちだったのではと感じ、
私自身、自分が幼い頃の父親と現在の自分から見た父親の移り変わりに
想いを馳せてしまいました。

夫婦の物語と父子の物語、これら2つを通して、
1人の男が父親になるということはどういうことか、
これから父親になっていく人達へ向けた応援のように思える小説でした。
主人公もいつか、自分の息子に同じことを思われるかもしれない。
そんな人生の円環も予感させます。

クライマックスは出産を控えた日々を描いた物語なので
多分想像はつくかと思いますが、
父との交流や妻の内的変化の末に自分自身を振り返り
階段を1つ登ったかのような主人公の姿が清々しくて、印象的です。

こういうのを読んでみるのもたまには良いなと思いました。
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