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そこにあった人生を想う『はるかなる岸辺』感想

(某所で書いたものをこちらにも転載)

『はるかなる岸辺』(岩波書店)
キャリル・フィリップス 著/上野直子 訳

流れ流れて、ドロシーという女性は
地方の村の一角に新規開発された住宅地に住んでいた。
そこで彼女は隣の家に住んでいて、
住宅地の管理人も務める男性ソロモンに出会う。
彼は1人で生きる彼女に親切にしてくれる。彼女もまたその優しさに触れ、
時には苦しいこともあるけれど、彼の存在によって温かい気持ちになる。
それが少しばかりしかない時間とは知らないまま。

本書はイギリスと移民の関係を取り上げた物語だ。
ドロシーはソロモンの存在を通して、
彼女が住む場所に漂う同調圧力的な空気や、
外部からやって来たソロモンに対する拒絶の空気を感じるようになっていく。
そしてその果ての「事態」にドロシーは直面する。

イングランドの地方部に辿り着いた2人の男女。
2人はそれぞれ異なる道を歩んできました。
それはもう変えることが出来ない、過ぎ去ってしまった日々。
辛く苦しく暴力的で、誤り続けたかもしれない人生。
そんな2人が出会い交流した、ほんの一時。
この本を読み終えた時、
その僅かな時間がもう一度戻ってきて欲しい。そう願わずにいられませんでした。
読む側にいる私に出来るのはこの本の冒頭に戻るということだけですが、
本の中の2人にとっては既に過去の出来事であり、それが哀しい。
同時に、2人のような人生を送る人が現在進行形でいることも
想像させます。ある意味において2人は特別ではないのです。
様々な人が夢見たイギリスへの希望を打ち崩す現実が、
読む側に突きつけられます。
その国だけで起こる問題ではないことを感じさせながら。

誰かに親切な人の背景には、周囲が知らない多くの失敗や後悔、
他者から受けた恩恵が秘められているかもしれない。
なぜなら1人1人にはその人固有の物語が必ず存在するから。
この本に登場する彼のように。
当たり前のことではありますが、
そのことを改めて考えさせてくれる1冊です。
第1章の文章の構成に驚くかもしれませんが、
ドロシーの精神の不安定さとその重さを痛切に感じました。
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