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追憶創ります 『君の話』感想

『君の話』(早川書房)
三秋縋 著

幼い頃の記憶から徐々に消えていく新型アルツハイマーに発症する人が
増加しつつある近未来の日本。その病の研究の中で、
薬を処方することで偽の記憶=義憶(ぎおく)を人の頭の中に埋め込んだり、
本物の記憶を除去する技術が発達し、それを利用する人達も増え続けていた。
義憶に浸り続けて現実の生活をおざなりにしていた両親、
その義憶自体に嫌気が差していた主人公は、
これまで何の思い出も作らず、孤独な人生を歩んできた。
いっそのこと空っぽな人生の記憶そのものを消そうと思い、
初めて記憶を消す技術を利用する。
しかし何かの手違いで、主人公の頭の中に
「小さい頃からの幼馴染みと過ごした思い出」という義憶が生まれる。
虚構の記憶に気持ち良さを感じながら、
所詮偽物だと悩む主人公。主人公がこの義憶を消そうと思っていた矢先、
彼は自分と同じくらいに成長した幼馴染みと「再会」する...。

高い評判を目にしていたので手に取る。
既に第3刷まで行っていて人気があるんだなと。
それで読んだ結果、先が気になって1日で読んでしまった。
面白さを堪能した時、既に午前2時過ぎ。

在りもしない記憶の中の幼馴染み
(しかもその魅力的な義憶の中そのままに成長した女性)が
現実に現れるという主人公的には旨味のあるような展開だが、
当然そんな人が現れたら普通は怪しむ訳で、主人公も例外ではない。
ちなみに義億の中に出てくる人間は義者(ぎしゃ)と云われていて、
実在する人間をモデルとしてはいけない。だから余計に怪しくなるのである。

一体お前は何者なんだと疑いながら、しかし彼女と過ごし始める日々は正直楽しい。
次第に自分の中の義憶は義憶でなくて、
本当にあった記憶が消えていただけだったのか? と
自身の記憶に対する信頼も揺らいでいく。
それを確かめる為に調べていくSF的なサスペンスとしても
興味を惹かせてくれた。出版社が早川書房なのも納得してしまう。

物語の前半は主人公と幼馴染みとの義憶が描かれるのだけど、
これがもう恐ろしいぐらいに甘酸。
でもこれは義憶だと主人公自身は自覚してる前提があるから
白々しさはそんなに感じないし、
実際にこんなのが記憶として頭の中にあったら幼馴染みにハマっちゃうのも分かる。
ふとしたきっかけで記憶がフラッシュバックして
あの頃を思い返してしまう感覚はきっと誰しもあると思うが、
その「あの頃」は主人公にとっては虚構に過ぎなくて、
それが更に主人公を苦しめてしまうんですね。
そこにいなかったはずの彼女が現れたら、もう何が何だかと混乱するに決まっている。

そういう混乱を描きながら見えてくるのは物語の力強さ。
本作で描かれる義憶というのは特定の個人の為に
作られた架空の物語、つまりフィクションと読み替えることも可能だ。
作中では義憶を作る職業があることも説明されている。
フィクションが人に与える影響力の強さ、
人にとっての物語の必要性とは?
という作者の考えも物語を通して浮かび上がってきてる気がした。

物語の舞台は夏なので今の時期に読むにはピッタリの小説だと思う。
というか読み終わって「(結果がどうなるかは置いといて)映画化決定だろ...」と思ったし、
自分がもしもプロデューサーならすぐにでも出版社に連絡すると思える完成度だった。
二転三転するストーリーなのでネタバレ踏まないように要注意。
読み終わった時にはタイトルにも割りと納得するだろう。
人によってはなんちゅう話だと思うかもしれないけれど、
君と僕がそれで良いならそれで良いじゃないか。
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