映画『横道世乃介』を観た。/知り合えただけで得する、そんな奴。

映画『桐島、部活やめるってよ』という青春映画は、良い部分が沢山あります。
その一つが高校生活のリアルさを描いたということでしょう。

とまぁどうして突然そんなことを切り出したかといえば、
今回観た『横道世乃介』は大学生の生活を描いた作品としては
上位に位置する作品なのではないか、そう思ったからです。
監督は『南極料理人』『キツツキと雨』の沖田修一監督。個人的には打率三割バッターです。
私はこの監督の新作はいつも楽しみにしていながら、どれも劇場で観ることが
出来ていませんでした。しかし、今回ついに劇場で鑑賞。
2013年が始まってまだ3ヶ月しか経ってませんし私もあんまり今年公開映画は観てないですが、
今年のベスト候補、早くも登場ですわ。

1987年の春。一人の若者が長崎の港町から上京し、法政大学に入学します。
彼の名前は「横道世乃介」。この作品は彼の様々な人との出会いや出来事で
彩られた大学生活一年目を描きながら、世乃介と関わった人々がその頃と彼を思い返す2003年、
この二つの時代で構成された作品です。
公式サイトはこちら


主人公の世乃介は図々しい部分もあるけど嫌味の無い、若干天然で明るく面白い男です。
そんな主人公だから観ていてとても面白いし、不快になる部分は全くありませんでした。
演じる高良健吾さんの自然体な演技ともピッタリ合っていて、
世乃介の魅力を堪能するだけでも満足できるでしょう。
そして世乃介は出会っていく周りの人々に、彼にその気が無くても少なからずの影響を与えていきます。
ここで一人ずつ挙げていくと映画の楽しみが減ってしまうのでエピソードの紹介はしませんが、
全ての人々において共通することは一つ。
それは横道世乃介という存在を思い出すと、誰もが笑って懐かしむのです。
その姿に私は考えます。「自分にとっての『横道世乃介』はいたかなぁ」と。
きっとそういう風に考えられるようにもこの作品は出来ているのだと思います。
そんな訳で世乃介と友人となる学生達が初遭遇するエピソードは中々笑えますし、
その後のやり取りなんかも上手く「間」を使ったリアルな距離感の会話で面白いです。
沖田修一監督の良さが光っていると思います。

この映画は大学生の生活もリアルに描いていると思います。
時代は違っていてもそこに生きる大学生はあまり変わらないのです。
例えば大学の入学式。長々と学長の話が続く中での退屈な静けさが懐かしい。
そしてサークル勧誘の情景。雑多で、だけど若者達の勢いを感じさせます。
しかしそんなのは小手調べ。
私は世乃介と彼の友人になる「加藤」が、友達を紹介したら教習所の
申し込みにかかる代金が割引になるキャンペーンについて話すシーンがドストライクでした。
同じサークルの合宿で入学式に出会った「倉持」と話す男同士の下衆な会話も中々です。
他にも世乃介は一人暮らしをしているので、その一人暮らしの描写に共感する若者や
かつて大学生だった人がグッときたりするのではないでしょうか。

更に1980年代の雰囲気を再現した細かさも見事。
服装だけでなく髪型、街の姿など、当時の時代を再現しようと頑張っています。
といっても私はその時代の人間ではないのですが……。
けれど画面に映る人物の後ろにさりげなく映る看板が時代を感じさせます。
そして度々2003年に時代が移ることで、そんな80年代の風景がより一層際立ちます。
時代が切り替わる時には西暦の文字表示は出ません。
しかし80年代の空気感を作り出すことに本気で取り組んだからでしょう、
画面から流れる雰囲気の変わり方で「あ、いま現代に飛んだな」ということが分かるのです。
これはとても上手いと思います。

この映画で最も時間が割かれるのは、吉高由里子さん演じる「与謝野祥子」との
ラブストーリーでしょう。祥子はお金持ちの娘で、喋る口調も典型的なお嬢様という感じ。
「ごきげんようぅ~」とか言っちゃいますからね。
そんな彼女と世乃介の友達以上だけど恋人なのかどうか分からない感じの距離感による
やり取りが非常に面白いです。
祥子の天真爛漫さというか、自分の好きな世乃介に対して
全力に向き合う姿がとてつもなく可愛いですよ。
最初は一方的に好かれて少し戸惑っていた世乃介が
段々と彼女にちゃんと向き合い始めていくのも良いですし、本当に応援したくなる二人です。
祥子が世乃介の故郷に行くシーン、
初めて祥子の家に世乃介が行くシーン、
そして二人で過ごすクリスマス……挙げたらもうキリがないくらいのほんわかな場面が多いです。
だからこそ2003年に移った時に滲み出る切なさの破壊力が堪らない訳ですが。
こんな祥子も世乃介と出会い「ある経験」をしたことで、
彼女が進む道が作られていったのではないか。そういう風にも考えることが出来ます。

物語は大きな空白を残したまま(「謎」じゃないですよ)終わりを告げます。
作品の中盤で2003年時点の世乃介の状態が早々に分かるのですが、
それによってますます最後は「大学生の世乃介はどう生きていったのだろう
と想像する人もいるのではないでしょうか。
そんな風に考えているということ、
それはもうすっかり世乃介の魅力にハマっている証拠だ
私は思います。

出演者全員がピッタリと役にハマり沖田修一監督の良さが出た、
とても良い大学生の青春映画だと思います。
同世代の若者が観て世乃介の朗らかな生活に笑うのも良いですし、
かつて大学生だった上の年代の人間が懐かしさに浸るのも良い。
そして今回私がここに書いたところ以外にも、
大学生を経験した人間ならまだまだ語れる部分が多い作品でしょう。

しよう思えば生臭い話の映画にすることも出来たと思うのです。
しかし作品全体の雰囲気をコメディにしたことで(それは原作者の要求でもあったとか)、
物語が展開にするにつれて漂い始める切なさが際立っていったのだと思います。
悪人らしい悪人が出てこない、登場人物全てに対する監督の優しい目線が感じられます。
それは一つ間違えると空々しい話になりかねない。
けれど世乃介の魅力的な人物像と沖田演出によって、
絶妙なバランスの作品になったと思います。
とても素敵な作品だと思いますので、是非どうぞ。


観る人によっては引き摺るなこれは……。
スポンサーサイト

comment

管理者にだけメッセージを送る

プロフィール

Author:ヤギメロ
映画とか本とか、色々好きな者だす。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード